吾輩(わがはい)は「刺客」である。名前は言えない。人前で言えるような仕事でもない。吾輩に仕事が来た流血の時代はとうに過ぎたはずなのに、現代の日本で「刺客」が飛び交っていると聞いて驚いた。

 民主主義社会について、哲学者カール?ポパー氏も言っていたというではないか。流血を見ることなく、政権を交代させる可能性のある体制だと。今の日本はどうなったのかと思って来てみたら、実際には刃傷ざたはないというので、ひとまずほっとした。

 先日、政権党が、候補を「刺客」と呼ばないでほしいと報道機関に申し入れたという。吾輩とは逆に、表舞台に立つ人たちだが、元気で楽しそうに殴り込んでいる面々も居るようだ。

 党首の小泉氏は「別に『刺客』とか言うつもりはない」と言っていたが、この人の言辞は、相変わらず独特だ。郵政法案が参議院で否決されて解 散した日には、あのガリレオを引き合いに出した。「地動説で有罪判決を受けたとき、『それでも地球は動く』と(ガリレオは)言った」

 法案の正当さを地動説にたとえて強調したかったのだろうが、中世の闇の中の宗教裁判に重ねるのは、闇をかいくぐって生きてきたような吾輩からみれば、やや無理がある。参院でだめなら即総選挙という手を使ったとも聞いたが、現代日本の首相の権力も、なかなか絶大なものだ。

 今日は、その総選挙の公示日らしい。そういえばポパー氏は、流血なしに政権交代を可能にする手だての一つとして選挙をあげていた。来たついでに、吾輩も結末を見守ることにしよう。