ラフカディオ?ハーン(小泉八雲)は、日本に移住する前、米ルイジアナ州のニューオーリンズで記者として働いていたことがある。その時代に記憶して後に本にまとめたことわざに「水は絶えず川に向って流れる」がある(『ラフカディオ?ハーン著作集』恒文社)。

 大型ハリケーン「カトリーナ」に襲われたニューオーリンズで、湖や運河の堤防を破った水が市街に流れ込んだ。街より周りの湖やミシシッピ川の水面の方が高い所が多く、ことわざとは逆に水が絶えず街に向かって流れようとしているような場所だ。危険性が指摘されていたのに、堤防の強化はなされなかった。

 行政の対応には、まだ疑問がある。地震とは違い、ハリケーンは刻々と近づく「予告された災害」だ。対策をとる時間はあった。常襲地帯の住民が怖さを知らないはずもない。

 避難命令は出されていた。しかし逃げる手だてを欠いた人たちが多く、犠牲になったらしい。行政側は避難のための車の手配や近隣の州との連携を十分とっていたのか。警告を出すだけでは責任を果たしたとはいえまい。

 ハーン編のことわざ集にはこういうのもある。「思案が彼の頭に居つくと、足には居らぬ」。頑固さについてのことわざで「人に足を動かすことを強要できても決心を変えさせることはできない」の意だという。

 災害時には、足を動かすように促されても動けない人がいる。軽くみて、動こうとしない人がでることも考えられる。それを前提にして、住民の全体が速やかに足を動かせるように導く計画が必要だ。