南北戦争の英雄だったグラント元米大統領は明治の初めに来日し、天皇と握手を交わしている。随行した米紙記者が、その場の天皇の緊張ぶりやぎこちなさを強調し、「歴代天皇で初めての握手」と報じた。

 歴代初かどうか定かでないと断りつつ、ドナルド?キーン氏もこの握手の模様を『明治天皇』(新潮社)で詳しく紹介している。どんなに不慣れでも、握手は開国日本が避けて通れない作法だった。

 維新より前は宮中にも庶民にも握手の習慣はなかった。今でも日本人同士はまずしない。出張先の外国でやむなく握手することはあるが、気恥ずかしさが伴う。できれば省きたいとも思う。

 先日、衆院選の女性候補が、面談した岐阜市長に握手を拒まれる一件があった。帰り際、候補が「じゃ握手でも」と求めると、市長がやんわり断った。特定候補に肩入れしない姿勢の表れだったが、テレビで報じられると、「非礼だ」「大人げない」と批判が集中した。

 昨年秋、球界初のストをめぐる交渉でも握手拒否が話題になった。席上、球団側代表が笑顔で差し出した手を、古田敦也選手会長がきっぱり拒む。球団側の甘い顔にだまされてなるものかという決意が感じられ、こちらは広く共感を呼んだ。

 あいさつ文化に詳しい国立民族学博物館の野村雅一教授によると、お辞儀や会釈が伝統の国々にも握手文化は浸透しつつある。それでも「握手史」の短い人々には、握手はするのも拒むのも難しい。あまり強く握ると粗野な印象を与えるが、日本人は概して握り方が控えめだそうだ。