ダークスーツにネクタイ姿が目立つ自民党の幹部のそばで、襟元の開いた小泉首相の明るいシャツが浮き立って見える。大勝から一夜明けた昨日午後の記者会見では、総選挙の締めくくりに臨む主役の余裕のようなものが漂っていた。

 郵政民営化は長年「暴論」といわれていたが、いつかは必ず「正論」になると考えていた、と首相は会見で述べた。国民は、民営化法案を否決した国会の方が「暴論」だと判断したと。

 シェークスピアの「マクベス」の中の有名なせりふを思い出した。「きれいは汚い、汚いはきれい」(中野春夫訳)。世の中には、絶対的に良いものも悪いものもないと魔女が言う。

 「『今が最(いつ)ち悪い境遇ぢや』なぞとは容易に言へんものぢや」。こちらは「リア王」に出てくるせりふだ(坪内逍遥訳)。民主党が、小泉旋風に巻き込まれて民意をつかめなかったのはなぜなのか。それを突き詰めて出直さないと、「今が最も悪い境遇」どころではなく、さらに深く落ち込みかねない。

 劇といえば、比例東京ブロックでは「喜劇?棚ぼた」が演じられた。圧倒的に多くの票を得た自民党で名簿登載者が足らなくなり、1議席が社民党に転がり込んだ。「国会の質問王」と呼ばれた保坂展人氏が、一夜のうちに負けと勝ちを味わった。

 「世界はすべてお芝居だ。男と女、とりどりに、すべて役者にすぎぬのだ」(「お気に召すまま」阿部知二訳)。今年の暑い夏をいっそう暑くした「小泉?総選挙劇場」が、ひとまず幕を閉じた。残暑の列島に、厳しい日常が戻った。