古代の中国に、指南車という車があったという。歯車仕掛けで、初めに南を向けておくと、車上の人形の手が常に南を指し示して人を導いた。そこから、教え示すことを「指南」というようになったと辞書にはある。

 世の習い事は様々だが、あくびの師匠が登場するのが落語の「あくび指南」だ。にわかに弟子入りした男が、師匠の言う「四季のあくび」のうち、長い舟遊びの後に出るという「夏のあくび」の稽古(けいこ)をつけてもらう。

 何度やっても様にならない。弟子入りにつきあって来ていた別の男がしびれをきらす。「教えるやつも教えるやつだ、へッ、教わる野郎も教わる野郎じゃねえか」(『名人名演落語全集』立風書房)。

 東京の大手監査法人の公認会計士4人が、証券取引法違反の疑いで東京地検に逮捕された。カネボウの粉飾決算への共謀容疑で、見かけの決算を 実際よりもよくした際、「隠すなら、こうしないと隠せない」などと「指南」した疑いもあるという。事実なら、帳簿の番人であるはずの公認会計士が帳簿の粉飾の稽古をつけたことになる。教えた方も教えられた方も病んでいる。

 近年、大手の監査法人の公認会計士らが、企業の不正経理に手を貸す事件が続いている。企業との密接な関係の中で帳簿の数字を扱うという仕事のありようが、罪の意識を薄れさせたのだろうか。

 これでは、どの会社にも欠かせない帳簿という社会への報告書の信用までが揺らぎかねない。「日本株式会社」を監視するはずの会計士や監査法人の「指南車」の向きが問われている。