特別国会が始まる前夜、森前首相が自党の新人議員の一部を皮肉った。「歳費がこれだけもらえてよかったとか、宿舎が立派でよかったとか、こんな愚かな国会議員がいっぱいいる」。批判は自由だ。しかし、その議員を候補に選んだのはどの党かと問いたくもなる。

 昨日、小泉首相が生みの親とも言える「小泉チルドレン議員」が続々初登院した。失礼ながら、国会が小泉?テーマパークになったかと錯覚しかけた。

 国会は一段と小泉色に染まりそうだ。こんな時こそ、しっかりとしたご意見番が欲しいが、なかなか見あたらない。かつて、そうした貴重な存在だった後藤田正晴?元副総理が、91歳で死去した。官僚として旧内務省に勤め、戦時中は台湾に出征した。戦後は警察庁に身を置き、その後は自民党政権の中枢に居た。庶民には経験しえない道を歩いた人だが、独 特の人情味と大局観があった。

 7歳で父を、10歳で母を失った。なぜ自分だけ両親がないのかとの思いを持ち続けながら、負けず嫌いの頑張り屋になったという。

 96年に衆院議員を引退したころ、日本の政治でいちばん大切に思っていることは、と問われて答えた。「それは平和を守ることですよ。海外へ出て武力行使なんてのは絶対やっちゃいかん、それだけだ。なんでそういう愚かなことを考えるのかね」(蛭田有一写真集『後藤田正晴』朝日ソノラマ)。

 若き日の戦争の実体験で身にしみた、痛切な戒めなのだろう。その言葉は、議員の大半が戦争を知らない世代となった国会への、遺言のように聞こえる。