3年ほど前までは、家屋と駐車場が入り交じった一角だった。去年あたりから、家が一つまた一つと取り壊され、今では駐車場だらけの大きな広場に姿を変えた。東京の都心部の、ある住宅街の変容だ。

 その様子から、何かが忍び寄って来る気配は感じていた。先日、東京の地価が軒並み上がっていると知り、あのバブル期の狂騒が再来するのではないかと不安を覚えた。

 東京証券取引所では、バブルのころよりもはるかに大きな商いが続いている。株価も上がってきた。インターネットを通じた個人投資家の短期売買の繰り返しが出来高を押し上げているとはいえ、巨額のオイルマネーが流れ込んでいるとの見方もあるという。

 バブル期と今とでは、時代の様相は随分違う。銀行が土地買収の資金を大量にばらまき、不動産業界も市民も踊ったあの異様さの再来は考えにくいかもしれない。しかし、歴史は繰り返すともいう。

 石原慎太郎?東京都知事が、2016年のオリンピックを再び東京に招致する活動を始めると表明した。64年の五輪では、都心の川を埋めて道を造り、道の上にまた道を走らせ、東京を車優先の街に変えてしまった。いわば車とビルのバブルで街並みを壊し、地上の人の視野を奪った。今はむしろ、五輪よりも前の街の姿を取り戻す試みの方が必要なのではないだろうか。

 東京には、五輪で得たものと失ったものが数多くある。いったん失ってしまえば回復するのは難しい。その功罪を見極めず、やみくもに誘致に走るとすれば、バブルの再来をあおりかねない。