イタリアの天文学者ガリレオ?ガリレイは、ミケランジェロが死んだ年に生まれ、ニュートンの生まれた年に死んだ。ルネサンスと近代科学に橋を架けた生涯を象徴する巡り合わせだ。これは史実だが、ガリレオにまつわる話には史実とは言えないものがある。

 「それでも地球は動く」。地動説を支持したために問われた宗教裁判での言葉というが、これも創作されたものらしい。

 小泉首相は、郵政民営化法案が参院で否決されて衆院を解散した日の会見で、この言葉を持ち出した。強大な宗教権力によって断罪されたガリレオと自らを重ねるようにして訴えた。日本の政治の最高権力者がガリレオの立場にあるはずもないが、再び法案を審議中の国会で4日、この言葉を巡るやりとりがあった。

 「ガリレオはローマ教皇(法王)庁に『意見を変えなさい』と言われた。首相は圧力を加えて『賛成に回れ』と。ガリレオでなくローマ教皇(庁)だ」。民主党議員に指摘され、首相は「首相に与えられた権限を最高に活用するのも民主主義」と答えた。

 ガリレオの時代は、地球が高速で自転しているのなら、石や動物は飛ばされてしまうはずだとの議論があった。ガリレオは「愚かにも……たれかが大地は動くと最初にいったときにはじめて動き出し、それ以前は動いていなかったように考えるのです」と批判した(『天文対話』岩波文庫?青木靖三訳)。

 後世の人々は彼の先見に深くうなずき、裁いた側は歴史に裁かれた。「権限を最高に活用」した首相を歴史はどう判断するだろうか。