今年のノーベル経済学賞には「ゲーム理論の応用」という業績で、二人の学者が選ばれた。時おり耳にする理論だが、なじみがあるとはいえない。

 ゲーム理論の説明には、よく「囚人のジレンマ」が持ち出される。竹田茂夫著『ゲーム理論を読みとく』(ちくま新書)にはこうある。警察が、窃盗の共犯と思われる容疑者を二人捕らえた。物証は乏しい。

 刑事は、二人を隔離してそれぞれに告げる。「相棒が黙秘している。もしおまえが自白すれば無罪放免にしてやる。逆に、おまえが黙秘して相棒が自白すれば、おまえの罪はもっと重くなるぞ」。「ゲーム理論の普通の説明によれば、囚人はそれぞれ相棒が裏切るのではないかという疑心暗鬼に陥って、自己防衛のために自白してしまう」と竹田さん。

 今回受賞したイスラエル?ヘブライ大のロバート?オーマン教授が記す。「ゲームの理論とは、利害の一致しない人々の合理的行動に関する理論である。その適用範囲は、通常の意味でのゲームをはるかに越え、たとえば、経済学、政治学、そして戦争などもそこに含まれる」(『ゲーム論の基礎』勁草書房)。

 もう一人の受賞者、トーマス?シェリング米メリーランド大教授は冷戦中にはゲーム理論を安保?軍拡問題に応用した。戦略研究の古典だという。

 戦略や戦略的思考といった言葉が人をひきつける力をもっているのを、竹田さんも認める。しかし、そのプラスのイメージだけに目を向けることには批判的だ。確かに国にも企業にも戦略は必要だが、戦略だらけでも息苦しい。