正月の開館日を早めたと聞いて、昨日、東京?両国の江戸東京博物館にでかけた。冷たい雨が降ったが、館内は、家族連れや子どもたちでかなりのにぎわいをみせていた。

 江戸時代の浮世絵師?葛飾北斎の「冨嶽三十六景」の展示(22日まで)に、人だかりができている。中でも、小舟と大波と富士山とを組み合わせて描いた「神奈川沖浪裏」の前で立ち止まる人が多かった。

 舟をのみ込まんばかりに逆巻く波のかなたに、雪を頂いた富士山が小さく見える。何かに襲いかかろうとする無数の手のような波頭の描写には、鬼気迫るものすら感じられる。

 北斎の絵は、印象派の画家のゴッホやモネに影響を及ぼした。ドビュッシーが、交響詩の「海」を作曲する際に、「神奈川沖浪裏」から啓示を受けていたという説もある。時空を超えて、強く呼びかける一枚だったのだろう。そう思って、しばらくたたずんでいると、「おたから、おたからーっ」という威勢のいいかけ声が聞こえてきた。

 寄席に見立てた一角があって、昔の物売りの声を聞かせる人が演じていた。この日は、七福神が描かれている昔の「宝船絵」が入館者に配られた。正月の江戸の町では、枕の下に敷いていい初夢を見るようにと、「宝船売り」が「おたからーっ」の声とともに売り歩いたという。縁起のよい初夢の筆頭には、富士山があげられた。

 この年が、どなたにとっても、穏やかで幸せの多い年でありますように。北斎が描いた数々の富士の姿を思い浮かべながら、「宝船」をかたわらにして、この文をつづった。