山下寿明さんは自力では起き上がれない。言葉を話すこともできない。食べものは、おなかに小さな穴をあけて直接胃に入れている。

 東京都世田谷区にある重症心身障害児の通所施設「あけぼの学園」でも今週、成人式が開かれる。今年お祝いする2人のうち、1人が山下さんだ。この20年間に、山下さんは知的な成長を確実にしてきた。だれも教えていないのに、テレビを見たいときにはテレビに視線を向けて声を出すようになった。ビデオが終わりそうになると、声を出して家族を呼ぶ。

 初めて会う人には、ニコッと笑顔を見せる。そのあと、家族に向かって、頭を上下に動かし、目をパチパチさせる。「よその人にちゃんと気を使ったよ」という合図だ。

 その一方で、からだはしだいに動きにくくなっている。おさないころは腹ばいや背ばいで移動していたのに、いまはできない。たんがつまりやすいのも心配だ。母親の絹子さんは「ここまで生きてくれたことに感謝しています。育てることは大変ですが、私の生きがいになっています」と語る。

 やはり、あけぼの学園に通っている岩城明子さんが成人式を迎えたのは6年前だった。赤い晴れ着を着て、ちょっとはにかむ当時の写真を母親の節子さんに見せてもらった。節子さんは「あなたはもう大人なのよ、と声をかけると、にっこり笑って応えてくれた。本当に大人に見えました」と話す。

 あけぼの学園の成人式では、話すことができない子どもに代わって、ともに歩んだ20年を親が語る。その言葉が毎年、積み重なっていく。