中米コスタリカ出身の女性マリセル?フタバさん(50)は東京在住23年、日本語の新聞も大意ならわかる。「コスタリカ消滅」「コスタリカ崩壊」。先週そんな記事が目に飛びこんできた。母国で何か大変なことが起きたらしい。

 料理店を営む夫の二葉新一さん(58)に尋ねた。「コスタリカ」は日本独自の選挙用語で、同じ党で地盤も重なる候補者が共倒れを防ぐため、小選挙区と比例区に交代で立つことを指す。言われていっそう混乱した。私の国にそんな制度はない。

 コスタリカ国会は一院制で57議席すべてが比例式で決まる。中南米の政治に詳しい富山大の竹村卓教授によると、腐敗を避けるため議員の連続当選が禁止され、任期を終えたら4年待たないと再挑戦できない。日本のコスタリカ方式の実情を現地で説明すると、だれもが「誤解だ」「印象が悪い」と困った顔を見せる。

 日本で中選挙区が廃止された90年代、候補者の一本化が各地でもつれた。編み出されたのがコスタリカ方式だ。日本コスタリカ友好議員連盟の重鎮、森喜朗前首相が提案したと当時の記事にある。連続当選禁止が念頭にあったようだが、いかにも強引なこじつけである。

 共存共栄のコスタリカの誓いがこの夏、相次いで破られつつある。郵政法案に反対した前議員が公認を得られず、小選挙区で同じ自民党の賛成派候補に正面からぶつかる。

 刺客、弾圧、大獄、国替えなど乱世を思わせる言葉が飛び交う。おりしも今月半ば、コスタリカから来日するパチェコ大統領の目に、日本の選挙はどう映るのだろう。