さすまたは罪人を捕まえる道具である。棒の先端についたU字形の金具で首や胴を押さえ込む。刺股とも指叉とも書く。おなじみ「鬼平犯科帳」では、長谷川平蔵率いる捕り手が悪党一味を追いつめる場面に出てくる。

 このごろは学校の備品として脚光を浴びる。不審者が生徒や教師を襲う事件が続いて導入するところが増えた。警官を招いて「さすまた講習」を開いた学校も多い。

 製造元のひとつ、東京都江戸川区の部品会社「実川製作」では毎週250本を出荷するが、注文に追いつかない。製造を始めたのは4年前、大阪府池田市で児童が殺された直後である。実川享社長(49)が大の鬼平ファンで、捕物の道具に目をつけた。試作した最初の3本はすぐ娘の通う小学校に贈った。

 学校で何かあるとたちまち注文が殺到する。大阪府寝屋川市の小学校で先月起きた事件では「備品のさすまたが身柄拘束に役立った」と報じられ、拍車がかかった。「納入先には幼稚園や病院も多い。何とも物騒な世の中ですね」。思わぬ需要に実川さんもとまどう。

 刑罰史に詳しい重松一義?元中央学院大教授(73)によると、さすまたは中世以来スペインなど各国で生け捕りや拷問に広く使われた。日本では実戦の武器という性格は薄い。むしろ幕府の司法権を見せつける「威圧の具」として、奉行所や関所に飾られた。

 「学校は安全」という神話が崩れて久しい。教育の場におよそ似つかわしくない道具だが、何か備えがないと不安な時代である。願わくは、学(まな)び舎(や)の守り神で終わりますように。