ジャンボジェット機で空港に着陸するとする。高度がぐんと下がり、やがて車輪が滑走路に達する。その瞬間の時速は二百数十キロだという。着陸直後は、窓の外の景色は激しく後ろに飛ぶ。そして、その景色の動きは、自動車の窓から見るのと同じくらいに落ち着いてゆく。

 着陸時の速度は、まだ地上のものとは言えない。900キロ前後で空を飛んでいた時の名残をとどめている。そこから大きく減速して100キロ以下になり、やがて車並みに近づいた時、天上の速度から地上の速度に戻ったと感じる。

 JR宝塚線(福知山線)で脱線した快速電車の速度は、線路を飛び出す直前には100キロを超えていたという。着陸後に滑走する飛行機が、地上の速度に戻る前にコンクリートの建物に衝突したような衝撃だったのだろう。

 カーブにさしかかるのに、なぜ高速で走っていたのか、あるいは速度が落とせなかったのか。他にも脱線に結びつく要因があったのだろうか。原因はまだ分からないが、速度の問題に限れば、この電車は遅れを取り戻そうとしていたようだ。

 手前の駅で40メートル行き過ぎたが、報告は8メートルとすることにしたと車掌が供述しているという。それが事実ならば、40メートルの後戻りでできた分の遅れを圧縮し、報告の8メートルに合わせようとして急いだとの状況も考えられる。

 まる2日たっても、先頭車両の一部には救助の手が及ばなかった。地上の事故なのに、現場は飛行機の墜落すら思わせる。使い慣れた安全なはずの乗り物が、一瞬のうちに多くの命を奪った。何とも痛ましい。