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 ああ、届かない。その瞬間、どよめき立つ16万余の観衆から悲鳴がもれた。無敗の3冠馬ディープインパクトが「第50回有馬記念」で敗れた。

 千葉県船橋市の中山競馬場で観戦して思った。なぜ、人々はこの馬に、これほど熱狂するのだろう。前回レースでは1?0倍の単勝馬券を記念品として取り置く人が続出し、全体の5%、5640万円が払い戻されなかった。ギャンブルというより「お祭り」なのだ。

 強いものを見たい。勝利の陶酔感にしびれたい。こんなファン心理を満たしてきたのは確かだ。だが、それだけではない。70年代のハイセイコーが石油ショックに沈む世相を、80年代末のオグリキャップがバブル経済に躍る雰囲気を投影したように、ディープインパクトもいまの気分を映しているに違いない。

 たとえば株価が持ち直して、景気回復が語られる浮揚感だろうか。連戦連敗の馬が話題になったときより明らかに上向きだ。同時に、強いものへの支持が広がりやすい世情を反映しているようにも見える。

 きのうのスタンドを埋めた人波から、総選挙で小泉首相に群がった聴衆を思い出した。郵政解散を断行した首相の強硬さが圧倒的に支持されていた。強い指導者なら問題を解決してくれると願ったような若者の投票行動も多かったという分析もあった。

 強いものに、すがりたい。ありがちな風潮だが、やはりどこか危うい。その意味で、3冠馬の敗北は現実の厳しさを見つめ直す好機かもしれない。はずれ馬券を懐に、駅へと続く「おけら街道」を歩きながら、そう思った。