「三八(さんぱち)豪雪」と呼ばれる歴史的な雪害がある。昭和38年、1963年の1月、北陸など日本海側で記録的な大雪が降り続き、交通がマヒした。

 当時、金沢大学の教官だった作家、古井由吉さんは、雪下ろしでの「際限もない反復」作業を小説「雪の下の蟹」に書いている。「全身が快く汗ばんでいる。久しぶりのことだった。血行が健やかになってゆき、神経がやさしい獣のようにまどろんでいた」(筑摩現代文学大系)。

 雪下ろしが「私」に解放感をもたらすという印象的な場面だが、現実の世界での作業は重く厳しい。時には人の命が失われるほどだ。暮れから日本列島の各地で、雪の記録が更新されている。106地点で、12月の積雪記録を書き換えたという。鹿児島は88年ぶりで、世界自然遺産に登録されている屋久島の縄文杉の枝が雪の重みで折れた。

 寒さの方も記録的だ。12月の気温は、北日本と沖縄を除く各地で1946年に地域の平均気温の統計を取り始めてから最も低かった。

 この寒さが今後どうなるのかは分からない。しかし猛暑の夏と酷寒の冬が、これ以上幅を利かすようなら、日本のくっきりと分かれた四季が「二季」になりはしないだろうか。春と秋という穏やかな季節が、強烈な夏と冬にのみ込まれなければいいのだが。

 この冬の大雪の影響は新聞社にも及んでいる。出来る限り、いつも通りに新聞をお届けしようと、原稿の締め切り時間を通常より繰り上げて、印刷や発送にかかっている。窓の外に雪はないが、雪の国を思いながら執筆する昨今だ。